産経関西(産経新聞大阪本社公式ニュースサイト)

箱の中で眠る人形 林きよこ 75 大津市

 わが家では2月の声を聞くと早々にひな人形を飾り付け、節句の翌日には片づける。

 ひな人形をしまい遅れると娘が縁遠くなる。そんな古い伝説を信じているわけではないが、できることならかわいい孫娘も、番茶も出花の頃に嫁がせてやりたい、と淡い願いが心の片隅にあるのも確か。

 緋毛氈(ひもうせん)の上に娘と孫2代の人形を飾ると、薄暗かった座敷がパッと春めく。

 「今年もおばあちゃんの人形、飾らへんの?」「うん」

 小さくうなずく私に、孫もそれ以上は聞こうとしない。確かに4年前までは、ひな人形の横に尉(じょう)と姥(うば)の人形を飾っていた。翁と姥の穏やかなたたずまいに、自分たち夫婦の未来像を重ね合わせて買い求めた、大切な人形だった。

 新聞のチラシで見つけた格安の人形を目当てに、夫と2人でデパートの人形売り場を見て回った。しかし目移りして、結局最高級品を奮発する結果になった。

 「これなら倍の幸せが訪れるかもね」

 あんなに意気込んでいたのに。残念ながら私たち夫婦にとって招福人形にはなり得なかった。それからしばらくして夫は天国に召されていった。人形を眺めれば夫恋しさがこみ上げる。眺めることさえ拒まれて、ついに人形は段ボールの中に。

 あれ以来、箱の中で眠り続ける人形。このまま日の目も見ず人形人生を終わらせるのには、あまりにも不憫(ふびん)でならない。

 「来年こそは」。それにはまず、私自身の気持ちの整理を急がねば。そう思い続けてもう4年になる。

前の記事:携帯せず 山田佳美 37 ピアノ教師 岐阜市 »

後の記事:反抗期 八木佳代子 35 東大阪市 »

ホーム

変わるロータリークラブ「第2660地区」の元気人のバナー

フォトニュース

グーグルのトライク 高台寺夜間特別拝観 京都・法勝寺「八角九重塔」 
古都で貴重な発見 信長の「破城令」裏づけ 国土交通省,海洋架橋 浪華のロマン未生流展
選抜高校野球大会大阪桐蔭高校 低価格な女性向けスーツの専門店「スーツミックス」 KNTツーリスト社長の菊池剛志さん