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しばらく待ってろ 小阪克彦 73 和歌山市

 もう電話がかかってくるころだろう。新聞の棋譜を並べながら、いつになく遅い相手からのコールを心待ちにしていた。

 先週はさえていた。2番を続けて負かして3局目、当たりを見落とした相手の石を「待った」という間を与えず上げてしまったのだ。

 相手は憤然として「もうあんたとは打たない」と言い捨て、帰ってしまったのである。

 こちらの方もその前は3番ストレートで負かされ、相手の含み笑いに腹を立て、碁盤に石をぶちまけて席をけったのだった。

 しかし、1週間もたてば寂しさが募ってきて「今日はいいか」と怒ったほうが電話をかける。こんな関係が10年近く続いたのである。

 電話が鳴るたび、来たか、来たかと思いながら取ってみると相手ではなくがっかりしていた。そして電話が来た。

 突然の訃報(ふほう)であった。

 お互い死んだときは、と話し合い、燃えない碁石を棺の中に入れるわけにはいかんと思案の末、「詰碁の本でも入れてやる」と相手が言ったのに、あの世に行ってまで苦しめる魂胆かとやり返したことが一瞬、脳裏をよぎった。

 しばらくして、棋譜並べをしながら基盤の上に倒れ込んだことを知らされ、次は負けない秘策を練っていたのかと胸が熱くなった。

 「しばらく待っていてくれ」

 涙でかすむ碁盤に向かってつぶやいた。

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