2009年7月 2日
【キーワードは人】(8)業をつなぐ《上》
M&Aで遺伝子を守れ
「しっかり手で触って位置を調整しろ。きちんと箱にならないぞ」
飲料や洋菓子などの包装用紙箱を製造する関西紙料(大阪市生野区)の工場(東大阪市)では、包装紙をのり付けするための大型機械が3台並ぶ。その横で、同社貼(はり)部最高責任者の中田英生さんが若手社員を厳しく指導していた。
紙箱は型抜きされた包装紙をのり付けしてつくる。型抜きものり付けも、それぞれ異なる熟練の技能が求められるため、両方を中小企業が1社だけで扱うのは難しい。
関西紙料も、のり付けを下請けに発注していたが、昨秋、その当時中田さんが経営していたのり付け専門の大食興産(藤井寺市)から事業譲渡を受け、機械と職人を引き取って現在の一貫生産の態勢を整えた。その際に中田さんも幹部として招き入れた。
関西紙料の竹内康晴社長は「一貫生産は念願で、数年前から中田さんに『一緒にやろう』と声をかけていた」と振り返る。
悩む中田さんを決断させたのは後継者問題だった。「技術には絶対の自信があったが、後継者がいなかったため、廃業せざるを得なかった。従業員の生活のことも頭痛の種だった」(中田さん)
両社と取引のあった近畿大阪銀行が、譲渡金額など条件や手続きの仲介に入ることで事業譲渡の話は一気に進んだ。一貫生産による納期短縮や移送のさいに雨などで製品がぬれるリスクの軽減など、相乗効果が生まれている。
■ ■
家族経営が多く従業員も少ない中小企業では後継者問題が避けて通れない。そんななか、M&A(企業の合併・買収)での事業承継が脚光を浴び始めている。
ねじや農業機械の製造を手がけるヤハタ(八尾市)は平成16年、取引のあった大阪東信用金庫から、東大阪市のねじ販売会社の経営権取得を持ちかけられた。この会社は安定した経営を続けていたが、経営者が高齢になり、事業継続が困難になっていた。
ねじ販売会社はヤハタにはない家具や文房具用のネジを扱い、大手文具メーカーと取引もある。これがヤハタに買収を決断させた。
従業員も全員引き受けた。目新しい指摘を受けることもあり、ヤハタの八幡公造社長は「勉強になることが多い」と手応えを感じている。
■ ■
事業承継問題解決の切り札としてM&Aへの期待が高まる一方、仲介者の収益性の低さも課題として表面化している。
メガバンク関係者は「企業の売買額が小さいと手数料も少ない。どんなに小さな案件でも人手と時間はかかる。最低でも一方が売上高30億円はないと仲介のうまみがない」と漏らす。
三菱東京UFJ銀行も今年5月、中堅企業のM&Aを支援する部署を開設したが、対象とするのは売上高100億円以上の企業だ。近畿大阪銀行も手数料だけでは採算はとれていない。
そんななか、中小企業の仲介を専門に扱う会社の活躍も知られ始めた。
近畿大阪銀行と共同で関西紙料のM&Aを仲介したオンデック(大阪市天王寺区)もその一つだ。元商社マンの久保良介社長が17年7月に発足させた。手数料は少ない。効率をいかに引き上げるかが収益力を左右する。
ただしリスクはつきまとう。せっかく金額面で折り合いがついても、経営者同士で「話が合わない」だけで、破談になったこともある。それでも久保社長は「人の相性が成否の鍵を握るため、かける言葉ひとつにひとつが重要でやりがいがある。潜在的な需要はあるのだから、今後さらに伸びる」と自信をみせる。
高齢経営者の増加で、事業承継は待ったなしの状況が続く。それに救いの手をさしのべるM&Aの効用は見逃されがちだ。
(2009年7月 2日 08:58)
タグ:キーワードは人
Category:がんばれ!!ものづくり日本, キーワードは「人」, 経済
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