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視聴率から録画率へ 中島純一(同志社女子大教授)

デジタル時代の新たな指標に

 テレビのドラマ番組では、今、不思議な現象が起きているという。面白いと前評判の高いドラマ番組が、実際には視聴率が必ずしも高くないのだ。例えばフジテレビの月9「婚カツ!」が、10%を切る低い視聴率を記録したことは記憶に新しい。ところがこの番組を録画率で見てみると上位10位以内となり(5月~6月)、人気のほどがうかがわれる。視聴率は低くても録画率は高いというこの一見奇妙な相関が、実は今日のテレビと視聴者の関係を象徴的に物語っている。

 録画率とは、最近主流になってきたデジタルのHDDレコーダーやパソコンのテレビ録画などにおいて、インターネットの番組ウェブで予約した人の実数をもとに数値化されたものである。視聴率のように統計的処理を施したデータではないが、1日に数十万という、ほぼ実態に近い数値が測定できるのが大きな魅力である。

 視聴率低下という現象は、今日のデジタル化社会の趨勢(すうせい)の中ではいわば必然ともいえる。すでに80年代、リモコンの普及によって、それまでの送り手支配のテレビから、視聴者側の受け手支配へと大きく変わった。家族を主体とした受動的な専念視聴から、個人中心の能動的な選択的視聴への流れである。そしてこの流れは、インターネットやモバイルなどのデジタルメディアの急速な広がりと浸透によって、一気に加速してきた。これらのメディアへのアクセスの高まりは、相対的にテレビへのアクセスを減少させており、同時に視聴率の低下も招くことになる。世界一のテレビ王国のアメリカでも事情は同じで、すでに2けた台の視聴率をマークすることは難しいといわれている。

 注目すべきは、すでに視聴者側はこのデジタル化に対応した視聴スタイルが、定着していることである。かつてのリアルタイム視聴に対して、ライフスタイルに合わせたタイムシフト視聴(録画視聴)が、操作の簡単なHDDレコーダーの出現と相まって一般的になってきている。この「見たいときに見る」視聴スタイルの広がりは、すでに一部の送り手側のオンデマンド放送の開始も促した(NHK、2008年より)。インターネットやモバイルの普及によって、自らのペースでアクセスし好きなところを見る、といった能動的で選択的な視聴行動が今日の特徴である。

 ただ録画するという行為には、必ずしも再生視聴されないという問題もある。簡単に予約できる最近のデジタル機器において、興味ある番組が次々と録画予約される半面、実際には再生される場面がどれ位あるだろうか。

 また多くの場合、録画あるいは再生の段階でCMがスキップされる現象を伴う。これは、スポットCMのような番組内に割りいる旧来からのCMのあり方が、能動的で選択的アクセス主流の時代においてなじみにくいことを物語っている。放送局の存立にかかわるCMのあり方については、番組内での新たな広告手法あるいはバナー広告などの検討が、今後必至となってこよう。

 視聴者は、CMスキップという行為を行う半面、ユーチューブのようなネット型動画など興味あるメディアへのアクセスには積極的であり、時には何百万という集中アクセスすら生み出す。現在の録画率を主に支える視聴者は、デジタル機器やパソコンになじみのある20代後半から40代前半の比較的若い男女が多いといわれる。従ってNHKよりも、民放のドラマ番組などの予約が多くなる偏りがある。録画率とは正確には録画予約数の割合であり、実際に再生し視聴する録画視聴率とは一致しない。しかしながら特定番組への興味関心を示す指数としての価値がある。視聴率調査の調査人数とは比較にならないほどの膨大なリアルタイムの実数は魅力的であり、特定世代層からのアクセスなどの偏りを統計学的に補正し科学的に調査するなら、このデジタル時代における新たな視聴スタイルの指標として大いに期待されるものとなろう。

【筆者プロフィル】
なかじま・じゅんいち
 同志社女子大学情報メディア学科教授(メディア・コミュニケーション論、社会心理学)。東京大学大学院社会学研究科後期博士課程満期退学。著書に「メディアと流行の心理」「コミュニケーションと日常社会の心理」「メディア変容と流行」など。

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