2010年3月 1日
【がんばれ!!ものづくり日本】知と技のコラボ「医療機器産業」
ものづくりと医療のコラボレーション(協業)によって生み出される医療機器産業が注目を集めている。生命に直結する機器のため新規参入には高いハードルがあるが、社会貢献度の高さや今後の着実な成長を見込み、異分野から参入する動きが広がっている。革新的な医療機器の開発に不可欠なのが産学官の知の連携だ。“命のものづくり”がもたらす経済、社会への波及効果に大きな期待が寄せられている。
製造技術を命のために
国立循環器病センター研究所副所長 妙中 義之さん

医療機器を日本の新しいものづくり産業として育成しようという取り組みが始まっている。その中心人物の1人が、企業と共同で人工肺、人工心臓の開発に取り組む妙中義之・国立循環器病センター研究所副所長だ。昨年8月には医療工学分野の研究者と連携、自ら発起人代表となり、ものづくり企業の製造技術を医療機器の開発に役立てることを呼びかける「日本の技術をいのちのために委員会」を結成し、幅広く提言活動を行っている。
「患者の生活の質の向上につながる先端的な医療機器の開発は、日本のものづくり企業の技術力を生かすことのできる分野です。産業としての将来性は高いものがあります」
妙中副所長は、これまで東洋紡、DICと高性能人工肺を共同開発した実績を持つほか、複数の企業と連携して小型乾電池サイズの人工心臓の開発に取り組んでいる。現在、人工臓器の開発を手がけているのは大企業が中心だが、ポンプ、モーター、電子回路などで高い技術力があれば中小企業でも参入できる可能性は十分あるという。
医療機器産業の育成は地域にとっても大きな恩恵をもたらす。医療機器関連の企業や大学が集積する米国ミネソタ州では、企業と工学系、医療系の大学・研究機関との間で人材の交流が活発に行われることで、新しい企業、新しい技術が次々と生まれている。
さらに、ものづくりを核に新規の事業化や契約をサポートするコンサルティング企業、機器の試作や臨床を請け負うアウトソーシング企業の集積も進むなど産業全体に大きな波及効果が広がっている。
だが、国内の医療機器市場に占める輸入品の比率は5割超と、高い技術を保有しているにもかかわらず、日本のものづくり企業の医療機器分野への参入意欲は高くない。背景には医療機器の開発に乗り出しても規制が厳しいため、収益を確保するまでの見通しが立ちにくいことや、わずかな確率であったとしても製品で事故が発生した場合、損害賠償や風評面でダメージを受けることがあるためだ。
妙中副所長は、こうした現状を変えたいという気持ちが強い。規制面では国や学会などと連携して先端医療機器の開発・審査ガイドラインを策定したり、審査体制の改善に力を注ぐことで企業が参入しやすい環境を整備している。
「先端的な医療機器を開発することで、これまでは救えなかった命を救えたり、患者さんの生活の質を向上させることができる。医療機器産業に参入することは社会的役割を果たすことにつながります」と話す妙中副所長。「委員会の活動を通じて医療機器に携わるものづくり企業が高い評価を受けられるよう尽力したい」と力強く語った。
たえなか・よしゆき 大阪大医学部卒。阪大病院などを経て昭和55年に国立循環器病センターに移り、平成19年4月から現職。21年1月から阪大医学部教授を兼任。58歳。大阪府出身。
産・学・官の連携で世界へ
山科精器社長 大日 常男さん

新たな成長分野として医療機器産業に注目し、自社の技術力で果敢に参入する中小企業が増えている。創業から70年を超える歴史を持ち、船舶に使われる機器、熱交換器、強化プラスチック、小型モーターの製造を手がけてきた山科精器(滋賀県栗東市)もその1社だ。大学や研究機関と積極的に連携し、医療現場のニーズをくみ取った製品開発で着実に実績を重ねてきた。
規制や品質に対する要求が厳しい医療機器。新規参入するためのハードルは高いが、大日常男社長は「参入して実績を積み重ねれば、すぐには競争相手が出てこないという利点があります。医療機器は20年先の成長に確実につながる事業だと確信しています」と話す。
大日社長が医療機器産業への進出を考え始めたのは10年前。それまで蓄積してきたメカトロニクス(機械電子工学)の技術やナノテクノロジー(超微細加工技術)を活用できる分野として着目し、3年かけて情報を集め、滋賀県の産学連携事業に6年前に参画したことがきっかけとなった。
医療機器を開発する上で重視しているのが医科系の大学、研究機関との連携だ。現場の医師が使いやすい医療機器を開発するためには、メカトロニクスの視点だけではどうしても限界があるからだ。
「すぐれた医療機器を生み出すには産学に、官を加えた連携が何より重要。企業には開発に役立ててもらえる技術を常に磨いていく覚悟が求められます。簡単ではありませんが、挑戦する意義は大きい」
医療機器の開発拠点は本社工場の敷地内に設けた中央研究所。これまでに滋賀医科大学や大阪大学医学部と共同で、生体組織を凝固させる機能を持ったマイクロ波を活用し、切開時の出血量を抑えることができる画期的な手術器具を試作した。
国立循環器病センターとは、工具の劣化や破損を音で検知するシステムの開発経験を生かし、かすかな駆動音の変化から人工心肺装置の異常を検知する装置を共同開発し、実用化を目指している。
また、平成17年には立命館大学のびわこ・くさつキャンパス内に研究所の分室を設け、海外の医療機器分野の展示会に出展するなど、積極的な活動を行っている。
昨年には「メディカル事業部」を新設。売上高に占める医療機器事業の割合は1割未満だが、将来的にメディカル事業を拡大させることで全社の売り上げを数倍に成長させることを目指している。
「メカトロニクス企業という今のイメージから脱皮して『メディカルデバイス・バイオデバイスの山科精器』と言ってもらえるように頑張りたい。ライフサイエンス分野に参入し、世界へ打って出る」と大日社長は抱負を語る。
おおくさ・つねお 同志社大商学部卒。印刷機械貿易(現ハイデルベルグ・ジャパン)を経て昭和51年山科精器。取締役、取締役副社長などを経て平成11年6月から現職。64歳。京都府出身。
第9回関西情報サロン 25日に開催、ご参加を
産経新聞社は、中堅・中小のづくり企業を応援する「がんばれ!!ものづくり日本 関西情報サロン」第9回会合を3月25日に開催します。テーマは「医療機器分野の中小企業ビジネス」。すぐれた技術力を持った中小企業の参入が切望されている医療機器分野のビジネスの可能性と社会的意義を、この分野の先駆者2人が説明します。交流会もあります。
【講師】妙中義之・国立循環器病センター研究所副所長「産学官・医工連携による医療機器産業の活性化方策の提案」
大日(常男・山科精器社長「中小企業が医療産業に参入するには何が必要か」
【日時】3月25日(木)午後1時半〜午後5時(午後1時、受け付け開始)
【会場】ホテルニューオータニ大阪(大阪市中央区城見1の4の1)宴会場
【参加費】3千円
【申し込み方法】メールで件名に「3月サロン参加希望」と明記し、氏名(ふりがな)、社名(ふりがな)、役職名、連絡先電話番号、会社の住所、事業内容を記入のうえ、関西情報サロン事務局(info-sogo@sankei.co.jp)へ。
【締め切り】3月12日(金)
問い合わせは「関西情報サロン」事務局(電話06・6633・9583)へ。
(2010年3月 1日 08:20)
タグ:がんばれ!!ものづくり日本, 医療機器
Category:がんばれ!!ものづくり日本, ビジネス, 知と技のコラボ
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