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こんどはスペイン版「梅干しおにぎり」

味噌もケソも…タイトル 薄切りのジャガイモとタマネギをたっぷり使うどっしりした卵焼き「トルティージャ・デ・パタタ」、通称トルティージャ・エスパニョーラ、つまりスペイン式オムレツ。これを、これまたどっしりしたハードタイプの長パンにはさんだスペイン式サンドイッチ「ボカディージョ・デ・トルティージャ・エスパニョーラ」。これこそスペイン版「梅干しおにぎり」じゃ。えっ、飛躍しすぎ? まあ、聞いてちょうだい、食べてちょうだい。

 第1に、安上がりで手間いらず。前の晩に作ったトルティージャの残りを、朝、長パンを上下に切って間にはさむだけ、と超簡単。トルティージャはできたてをはふはふといただくのもおいしいけど、翌日、すべての材料がなじんでしっとりしたものにも、また別の味わいがある。「一日おいたトルティージャ」のほうが好きというスペイン人も多い。パンにバターやマヨネーズを塗るとか、栄養のバランスや彩りを考えてレタスやトマトもはさむ、なんてことは、一切なし。パンとトルティージャ、これだけ。いたってシンプル。はさんだらパンの上からむぎゅっと押して、トルティージャのオリーブオイル分をパンに染み込ませる。腹持ち抜群のボカディージョ・デ・トルティージャ

 第2に、固めのしっかりしたパンだから、ボカディージョはアルミホイルに包むだけでいい。形崩れせず、持ち運びが楽ちん。

 第3に、腹持ちのよさ。ふわふわの白い食パンでつくる、柔らかいお上品サンドイッチとはまったくの別ものである。目のしっかり詰まったパンだけで厚さが5センチ前後、トルティージャをはさむと、全体の厚みは6センチを軽く超える。手の長さくらいがひとり分。これを両手でぎゅっと押しつぶしながら、あごがはずれるかと思うほど口を開けてほおばる。噛みごたえのあるパンをしっかり咀嚼する行為には、食べることの原始的な喜びが蘇ってくる感じがある。トルティージャのじゃがいも、そしてパンの質量がはんぱじゃないから、わたしならこの標準サイズの半分も食べないうちに、おなかがパンパンになってくる。ちょっと強引に言ってしまえば、漫画やコントに出てくる大きなおにぎりみたいな感じ。

35年前の兵役義務中のルイス 第4に、電車などで長時間移動するとき、遠足のお弁当、学校へ行く子供に持たせる軽食など、登場シーンもまさに、日本の伝統的な携帯食、梅干しおにぎりにそっくり。

 もちろん、おにぎりの具がほかにもいろいろあるように、ボカディージョの具も、肉、魚、野菜、チーズと様々である。それでも定番中の定番は、なんといってもトルティージャ・エスパニョーラ。だから、それをパンにはさんだものがスペイン版の梅干しおにぎり、というわけである。

「一番思い出深いボカディージョは?」とルイスに聞くと、35年前の義務兵役時代に食べたものだと言う。兵役期間の最初の45日間は厳しい軍事訓練で、そのとき午前の軽食として出されたのは、来る日も来る日も、ボカディージョ・デ・トルティージャと1本の瓶ビールだった。今思えばなんてことないボカディージョだったのだろうが、朝早くから体力を激しく消耗しているので、「これほどうまいものはない」というおいしさだったという。

 いまとは大違いでガリガリだった若き日のルイスが、ボカディージョにかぶりついてはビールで流し込んでいる姿が目に浮かぶようだ。 (齋藤慎子)

 「ケソ」とはスペイン語でチーズのこと。「味噌とケソ。音の響きもさることながら、発酵食品どうし、これがなかなか相性よし。毎日、和西折衷ごはんを食べて暮らしている日本人とスペイン人カップルの日常の断片を、アンダルシア的に(不定期に、のほほんとマイペースで)お届けする予定。味噌やケソのように熟成できるかどうか、乞うご期待?!」(齋藤さん)

【筆者略歴】齋藤慎子(さいとう・のりこ) 新潟県生まれで、おもに奈良県育ち。同志社大学文学部卒業後、大阪での広告会社勤務などを経て2003年からスペインのマラガ県在住。現在、ビジネス書や自己啓発書を中心とする翻訳のほか、“国際カップルよろず相談”に乗ることも多い。スペイン版江戸っ子であるマドリッ子「ルイス」の妻として主婦業も一応こなしている…つもり。

 主な訳書に『カオティクス』(フィリップ・コトラー、ジョン・A・キャスリオーネ共著、東洋経済新報社)、『ザ・コピーライティング』(ジョン・ケープルズ著、神田昌典監訳、依田卓巳共訳、ダイヤモンド社)、『マンデー・モーニング・リーダーシップ』(デビッド・コットレル著、東洋経済新報社)、『バルタザール・グラシアンの賢人の知恵』(バルタザール・グラシアン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『究極のセールスレター』『究極のマーケティングプラン』(いずれもダン・ケネディ著、神田昌典監訳、東洋経済新報社)など。

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