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【屋久島巡礼】畏敬の念深める"嶽参り"

朝霧に包まれた永田岳山頂付近の祠で、手を合わせる参拝者

 「よいしょ、よいしょ」。ひざを胸まで上げねば登れないほど急峻(きゅうしゅん)な坂道に、思わず掛け声が出た。ひと休みすると、ヤクシマシャクナゲが参拝者を見守るようにりんとした白い花を咲かせているのに気付いた。
 

厳しい風雨のなかで清楚な花を咲かせるヤクシマシャクナゲ

 屋久島には多くの登山道がある。永田岳(標高1886メートル)への永田歩道の行程は、地元のガイドたちが「島内でもっとも厳しいコース」という。「屋久島には、登山という考え方はもともとないんです」とは、永田集落の柴鐵生(しばてっせい)さん(67)。かつて地元の人たちが奥岳と称する山々に登ったのは、春と秋の年に2回。「嶽(たけ)参り」と呼ばれる山岳信仰の行事のときだけだった。

永田の人たちは永田岳へ、宮之浦の人たちは宮之浦岳へと、頂上の祠(ほこら)に祀る権現さまに自然の恵みへの感謝と生活の無事を祈願するため、集落ごとに参拝していた。昭和30年ごろに始まったが過疎化とともに一部を除いて、集落がかりで行う行事としては衰退していった。
 

山頂から鹿之沢小屋に向けて歩く地元の中学生ら

 柴さんが復活させた永田集落の嶽参りは、今年で10年目だ。朝5時すぎ。薄明かりの永田浜に集まった参拝者12人が、頂上の権現さまに供える、海水を含んだ砂を竹筒に収めて出発。長い道のりを経て、山頂まであとわずかの鹿之沢小屋に到着したのは午後5時。早めに就寝して翌朝4時の出発に備えた。

夜が明け、山頂付近の祠を囲む岩屋には冷気が吹き抜けていた。深い霧があたりを包む。参拝者は集落の人たちに託された思いも込めて手を合わせた。

嶽参りの参拝者が下山した約6時間後、「学校登山」に参加する永田中学校の3年生4人が、教師たちと登ってきた。嶽詣りと行程は異なり、やや緩やかな道のり。しかし、初めて永田岳に登る生徒にとって、厳しいことに変わりはない。鹿之沢小屋で宿泊した生徒たちは、山小屋を黙々と清掃して下山した。

集落へ戻った生徒は口々に、「もう一度、同級生たちと一緒に訪れたい」。日高由衣さん(14)は「頂上までの一歩一歩はつらかったけれど、島を悩ませるゴミ問題などに接したことで、最後までやりとげねば分からないことがあると気付いた」という。

体調を崩し、3月に退院したばかり柴さん。一時は参拝を断念せざるを得ない状況だったが、「伝統行事の衰退が集落の、やがては島の存続の危機につながる。世界遺産という価値を屋久島に生きる者たちが責任を持って共有し、命をかけてこの島を守らなければ」と、今年も力強く頂上を目指した。

(屋久島巡礼取材班)

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