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がんとの共存、来春政策提言 日本癌治療学会 学術集会成果

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 がんに関する学会では最大の「日本癌(がん)治療学会」。がん患者や支援者らを招くスカラーシップや医療者とがん治療経験者との対話を行う市民公開講座などのイベントを開催するなど、治療だけでなく、患者のQOL(生活の質)を高める取り組みを進めている。こうした取り組みが関心を集め、去年10月下旬に3日間、京都で行われた学術集会「がんを治す、癒(いや)す〜Cancer Cure and Care」には、これまでで最多の8300人が参加した。会長を務めた三木恒治・京都府立医大大学院教授に、学術集会での成果や、それに伴う今後の取り組みなどを聞いた。 

(取材 北村理)

 ■患者との対話充実

 ――10月の学術集会は、最新の治療だけでなく、がん患者の社会的な問題まで非常に幅広い取り組みが目につきました

 三木 がんはその種類や個人の状態によって治療法もいろいろあります。このため、画一的な治療では対応できませんし、治療技術も進んで、完治するケースが増えてきています。つまり、治療中・後の患者さんのQOLの維持、向上についても取り組みが必要となってきました。そのため、患者さんとともに治療に取り組むことが医療現場としても不可欠となってきました。実際、米国のASCO(臨床腫瘍(しゅよう)学会)では、すでにさまざまな患者さんが自ら参加し、対話を行っていることなどから、日本でもその必要性が叫ばれ、特に昨年の学術集会から力を入れ始めました。

 ――今回、医療者と患者さんとの対話で取り組んだことはありますか

 三木 PAL(Patient Advocate Lounge)という、医療者とがん患者が集う専用の場所を設け、学会の医療連携委員会の医師のメンバーらが、患者さんがどんなことを医療現場に求めているのかを、患者さんたちと話しあう機会を設けました。このほか、「キャンサー・サバイバーシップ」(がんの生存者)に関するパネルディスカッション、市民公開講座を開催しました。また、哲学者の梅原猛先生に来ていただき、3度のがん治療体験をお話ししていただき、医療者との対話と早めの治療の必要性についてアピールしていただきました。

 ■「緩和ケア」に注目

 ――過去最多という参加者を得た要因は何だったのでしょう

 三木 今回は、分子標的薬と、緩和ケアなどの患者支援プログラムが多くの参加者を呼んだのではないかと思います。分子標的薬は、がん治療の新潮流を象徴するものです。そうはいっても抗がん剤がいまでも治療の柱ではあるのですが、今は新しい抗がん剤がなかなか出ていません。それで分子標的薬に注目が集まっています。また、分子標的薬のほか、免疫療法や、最先端の技術を使用し体に負担の少ない低侵襲療法など、現在注目を浴びている治療法を紹介しました。こうしたことは、患者さんにとって何が最適の治療なのかを考えるうえで、専門分野を超えて最新のがん治療を学ぶよい機会になったと思います。

 ――緩和ケアの発表では、疼痛(とうつう)管理から精神的なケア、緩和的な外科手術の問題まで、どこの会場も満席でした

 三木 緩和ケアはチーム医療が必要ですから、医師だけでなく、看護師や薬剤師などあらゆる職種の人が参加してました。そして、最近は、がん診療連携拠点病院などでは緩和ケアの取り組みが求められていますから、医師の関心も非常に高くなってます。また、この学会の特徴として、個別のがんの学会や緩和ケア学会とは違って、横断的ですから、いろいろな立場の人が参加しやすいといえます。

 ――そうした学会の特徴を生かして、今後さらにさまざまな立場の人が参加できる機会をつくられていくということでしょうか

 三木 そうですね。ただ、そうなると、学会の運営のあり方を見直していかないといけないですね。もともとは医師のための学会で、会員の会費などで運営しているわけですから、医師以外の人たちへの応分の負担を求め、だからこそ立場を超えて、実のある議論を進めていけるということになればいいと思います。

 ――これだけ、いろいろな立場の人が、がんについて議論できる場所は他にないですが、それだけに、議論の成果を政策に反映できるよう国に働きかけをする必要があるのではないでしょうか

 三木 そのとおりだと思います。そこで、今回の学術集会での議論の成果を、来年春までにとりまとめて、政策提言として発表し、国に提出しようかと考えています。これは初の取り組みです。従来は、学術集会の開催期間内に提言をまとめるということでしたが、今回は患者さんの側からいろいろな意見も出ましたので、あわててまとめるよりも、整理して議論してからでもよいのではと考えました。

 ――いろいろな意見といえば、特に最終日に開催された特別企画「がん難民を救うために」では、がん患者や家族の経済的な負担、がんの治療が就労環境に及ぼす影響など、きわめて社会的な側面にも光があてられました

 三木 あの企画では、がんの治療を受ける患者さんのおかれた環境について本当にいろいろな側面から議論されたと思います。それだけに、多くの問題があるなかでどこに焦点をあてるかについて、事前の準備が大変でして、この1年の間に数回集まりました。次第に会の開催が迫り、時間がどんどんなくなるなか、Eメールなどでやりとりするなど大変でしたが、がん治療と患者さんのQOLの問題がいかに複雑で、それだけに、医療現場だけでなく、多くの人の患者さんへのかかわりが必要だということが広くアピールされたということでは、大きな成果があったと思います。

 ■社会問題を解決へ

 ――がん患者の就労の問題では、働き盛りのがん治療経験者のうち、およそ3割が退職を余儀なくされ、4割が減収になったという発表がありました

 三木 特に、最近の不況のなかでの話ですから、より深刻な問題として、受け止められたのではないかと思います。だからといって、経済的に困っているがん患者さんを金銭的に支援をしたらいい、という単純な問題ではないと考えます。がんの相談窓口に治療経験者の方にきていただくとか、雇用機会創出の必要性であったり、がんの治療を続けている患者さんの立場を職場のなかで保障する法的な整備の問題とか、そのあたりについても、学会として、政策提言のなかで、どう現実的な提案としてまとめられるのか考えていく必要がありますね。

 ――社会的な問題の解決となると、がん患者が生活している各地域の行政にかかわりを求めるということも必要となってきます

 三木 そうですね。これだけ複雑にいろいろな問題が絡み合っていると、医療現場だけでは対応に限界があります。私も京都府のがん対策会議の座長として行政に反映できるよう努めています。今回のような学術集会は、今後ますます増えると予想される多くの参加者を収容できる施設の問題などから、全国巡回は難しく、京都と横浜でしか開催されなくなります。しかし、各自治体はそれぞれがん対策の戦略をつくりつつあり、各都道府県にいる学会員がそれらの審議の場に立ち会っていますから、今後の学術集会の成果をそれらの学会員を通じて、何かサポートできるかもしれませんね。

 みき・つねはる 京都府立医大大学院医学研究科教授(泌尿器外科)。昭和24年、大阪府生まれ。大阪大医学部卒業後、大阪府立成人病センター勤務。大阪大医学部准教授を経て、京都府立医大教授。日本泌尿器科学会理事、日本癌治療学会理事。 


【患者になったら…】家族の負担 どう緩和する

 人が病気になったとき、看病の負担が一番大きいのはご家族です。

 がん患者さんのご家族に聞くと、「これからどうしたらよいのか分からない」「不安で仕方がない」といった声を聞きます。

 さらに、医療技術の進歩で、治療の現場が入院から外来に移行しつつあり、そのため、患者さんへのケアの提供者は、医療者からご家族へと代わっており、ますます、ご家族の負担が増えてきています。配偶者となるとなおさらです。

 また、がんの場合、患者さんの身体および精神状態は不安定になりがちなので、その分、ご家族には多大なストレスがかかります。

 このため、がん患者さんのご家族の精神状態(抑鬱(よくうつ)の状態)は、患者さんと同等といわれています。精神医学的有病率調査によると、患者さんのご家族のうち10〜50%に診断がつき、「鬱病(うつびょう)」「適応障害」が多くみられます。

 身体的症状として、介護の疲れが出ている▽不安で眠れない▽食欲がない▽肩がこる▽涙が止まらず、介護に支障がでている―などがあります。

 ただ、ご家族の場合、このような症状を感じていても、患者さんへの配慮などから、医療者に訴えないことが多く、医療者側も過小評価しがちです。

 ですから、ご家族のみが医療者とじっくり向き合える場所が必要です。

 症状の改善には、薬物療法、面談による個人精神療法、同じような境遇の家族と話し合う集団精神療法、そのほかのリラクセーションなど精神心理療法などがあります。

 こうした医学的な対応のほか、がん患者さんのご家族の場合、介護のために離職したり、貯蓄を使い果たしたりするなど経済的な問題も生じるため、ソーシャルワーカーなど他職種への相談が必要な場合も出てきます。

 近年、がん患者さんと同様に、ご家族も第2の患者として認識されるようになっており、緩和ケアチームや精神腫瘍(しゅよう)科などがご家族の治療にあたるようになっていますので、前述の症状がみられた場合、それぞれの病院で相談してみてください。

 がん患者さんの治療をスムーズに進めるためにも、ご家族が自分らしく介護ができることがなにより大切なのです。

      ◇

 今回は、がん患者を抱えた家族の精神的な負担の解消について、埼玉医科大学の大西秀樹教授(精神腫瘍科)に聞きました。  

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