
カタカナが貢献 豊かな日本語
日本語
―金先生は、日本のパワーの源として「経済力」に加え「文化力」を挙げておられます。
金氏 私は台湾人で、日本に来て大いに日本語を学んだものですが、学んでいるうちに日本語は実に豊かな言語であると実感しました。豊かであるとともに非常に複雑な言語でもある。まず漢字がある。そして表音2種のひらがなとカタカナがある。3種類も表記がある言語なんて世界で日本語だけですよ。このかな文字とカタカナがあったからこそ外国書物の翻訳も容易になった。そしてそのおかげで外国の先進技術導入も容易になり、日本の近代化につなげたわけです。
これは世界に類のない文化力ですよ。言葉が豊かということが文化の伝達・伝承にどれほど役に立っているか。日本の人は気付かないばかりかその豊かな日本語を使いこなし切れていない。
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桐山氏 たしかに日本語の素晴らしさに日本人は気付いていない。気付かないから使いこなしていない。使いこなせないからますます日本語が退化していく。この悪循環ですね。
金氏 繰り返しになりますが、かな文字とカタカナがどれだけ日本という国の文化力アップに貢献したことでしょうか。たとえば外国文学の翻訳本を考えてください。ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』みたいな小説には、人の名前や地名がいっぱい出てくるでしょう。それを一つ一つ中国語に言い換えようものなら、人名や地名だけでずらりと漢字が並ぶわけですよ。それは実に長いですよ。こんなに長い漢字を見るだけで、もううんざりしてしまいます。
それからするとカタカナは優れた文字です。文学ばかりか芸術、学術、技術などとにかく外来語すべてをカタカナで表記できるわけですから、読む方にしても「これは外来語だ」とカタカナを見ただけで視覚的にすぐ判断できる。漢字表記では、そう簡単にいきませんよ。留学生たちにもこのような日本語の素晴らしさをよく理解しなさいといつも言うのです。私自身が経験しているからその辺のことはよく分かるのです。ところが日本人は当たり前と思っていますね。
桐山氏 なるほど。私もご指摘されるまで気がつきませんでした。
金氏 これは比較の問題ですので、私のように中国語と日本語の両方やっていないとなかなか分からないことですよ。母国語をしっかり身につけることがどれだけ大切なことか、日本の人たちに分かって欲しい。正しい日本語教育の徹底を教育の根幹にするべきなのに、小学校の高学年から英語を教えるなんて。本当に必要なのでしょうかねえ。
私の母語は台湾語ですが、子どもたちは日本で生まれ、日本で育ち、これからも日本を中心に生活していくことでしょう。ですから彼らにとっては日本語こそが母語なんですね。ふつうなら両親の母語も教えたいところでしょうが、子どもたちには日本語をまずしっかりと身につけるようにしつけました。こんなに豊かで美しい言葉なのだから、これさえ体得すれば、人間として必要な知識をたっぷり吸収することができると判断したからです。この判断は間違っていないと確信しています。
桐山氏 まず教育に携わる側の人たちが正確な日本語の重要さを認識することです。
―宗教家である桐山管長は、とくに言葉の重さ、重要さを痛感なさっておられるでしょう。
桐山氏 私も本を書いたり、人前で話したりすることが多い人間ですが、自分自身が言葉の意味を正しく理解していないと、なにごとも正確に伝えることはできない。たとえば難しいテーマで話したり書こうという場合、まず自分が深く理解することが大切ですね。本人が分からなければ相手が分かってくれるはずもない。その次にそれをいかに正しく、美しく、やさしく話し、書くかを真剣に考えますね。
金氏 その通りだと思いますよ。言葉は自分の意志を伝える重要な道具、手段なのですから、肝心の本人がまず理解しないことには正確に伝わるわけがない。建前と本音を使い分ける人ややたらに難しい言葉を使う人がいますね。私は本当に正しいと信じていることだけを発言するように心掛けています。
桐山氏 金さんの文章は明快かつ率直ですね。 明快率直はとても大切なことですよ。
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